ponsharaの映画評

模倣犯』 監督・森田芳光 2002年公開  ★★☆☆☆ ネタバレ注意

原作とはあまりに違う。森田版「模倣犯」だった。凝りに凝った演出。メディア批判、大衆批判も込められていた。

しかし、蕎麦屋のカズの妹が自殺していないことは、救いだった。

豆腐屋の親爺、誘拐された鞠子の祖父役を山崎努が演じたが、本当に格好良かった。黒澤明の『天国と地獄』で血も涙もない、犯人を演じた彼が、被害者の遺族として得体のしれない犯人と対峙する。

カズ役の藤井隆とヒロミ役の津田寛治の演技が、秀逸だった。

ホン星役の中居正広は、その顔、その目だけで体現していたが、・・・。うまくない。

最後の場面は、この悲惨な物語に「救い」をもたらしたかったのかもしれないが、蛇足だった。

しかし、推理小説を映画化する場合、すでに原作を知っている聴衆には、ラストを変えて見せることが多い。

あっと驚く、テレビ局での生放送中に事件が解決する、というアイデアは面白かったが、爆発には度肝を抜かれた。故に★ふたつ。

 

レンタルDVDで視聴した。44の謎々がおまけで付いていて、わかりにくい場面の解説となっていた。そこで初めて分かることも多かったが、監督の独りよがりの映画だったことがよくわかった。

 

飢餓海峡』  監督 内田吐夢  ★★★★★  ネタバレ注意!

薄幸の淫売婦、八重役の左幸子が可憐で美しくて素直過ぎる。その哀しみが胸を突いた。

彼女が、辛い仕事に体を汚されても、魂は汚されなかった。それは、一途に自分に大金を恵んでくれた「犬飼さん」が恋しかったからだ。彼の残していった、親指の爪を彼女は後生大事に紙に包んで、持っていた。時々、その爪を出して自分の顔や首筋をそれで、こすって自慰していた。

しかし、その10年後、偶然手に入った大金を元手に、舞鶴で食品工場を起こし地元の名士となっていた樽見は、自分に礼を言うためだけに訪ねてきた彼女が「犬飼さん」と呼ぶことに恐れ、手にかけてしまう。

北海道岩見の質屋に強盗に入り、70万円もの大金を奪ったふたり組と駅で待ち合わせていた犬飼。その後、三人で津軽海峡を小さな船で渡り内地へ逃亡を図る。その日は、おあつらえ向きに大風により、青函連絡船層雲丸が、転覆して乗客乗員の半数以上が水死、行方不明となっており、消防、警察、漁師たちの救援の船で、港はごった返していた。

この事件をずっと追い続ける、函館の刑事に伴淳三郎。一切おちゃらけた場面はない。ずっと陰鬱な表情であった。舞鶴でやっと現れる若手刑事に高倉健。彼は、格好良いだけで、まったく演技力がない。

犬飼つまり樽見役の三國連太郎は、「なりきり」俳優なので、本当に恐ろしい迫力だった。

彼は、津軽海峡を渡る船の中で、果たして仲間割れの果てにふたりを殺害して大金を独り占めしたのだろうか。あるいは、彼を殺そうとした男から身を守るために正当防衛をし、結果撲殺してしまったのか。

北海道へ現場検証をしようと、乗り込んだ青函連絡船の上から八重のために、花束を手向けようと促されて、樽見は海投身してしまう。

 

始まりも、終わりも海峡の海と空が長く映し出される。

 

私は、樽見の供述通り彼は正当防衛で、一人は殺していると思う。そしてそう証言しても、警察は信じないだろうことも。彼は、この資金で事業を成功させた。母親孝行をして、地元に多額の寄付をし、貧しい子弟の支援や刑務所から出てきた人の更生のために3000万円もの寄付もしている。

 

しかし、殺人罪は後に善行を積もうともチャラにできるものではない。

ただ、この犯罪の大元にあるのは、貧困だ。

津軽海峡を、飢餓海峡と呼ぶ水上勉

原作を読んでみようと思う。