ponsharaの読書日記

『日没』 桐野夏生著 2020年 岩波書店刊  ★★★★☆

呆然自失 ものすごい衝撃を受けた。図書館で順番を待っていたが、やっと読めた。落ち着いて

ゆっくり再読をしようと思う。

桐野の作品は、ノンストップで読んでしまう。

 

表現の自由は、日本国憲法で保証されているが、・・・。権力に抗うことは、表現してはならない。禁止だとされたらどうなるのか。いや、既にこの動きは現実に始まっている。

 

暴力、レイプ、異常性愛、反原発、反体制、・・・。これらを、各作家が国家権力によって捉えられて、「転向を強要される」とどうなるか。閉じ込められて、食事を制限され、薬漬けで廃人にさせられていく・・・。

 

世界中で、独裁国家などでは実際に、多くの人が収監されて心身を縛られている。桐野は、恐らく多くの資料を集めて徹底的に取材をしたのだろう。

 

これが、未来予知のSFではなく、限りなく実社会に近いものを写しているのではないか、ぞーっとなった。

 

それにしても、桐野氏は常に新しいものを描く。社会の動向に、必ず彼女の楔を打ち込む。 桐野はもう、若い人ではない。

 

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8月13日 再読

やはり、最後の場面は納得がいかない。これで終わりでは。

憤りと怒りを、読者が晴らせ、考えろというのだろうか。 いやだ。だから、マイナス1★

国家に逆らう著作をする作家を閉じ込めて、更生させようとする療養所、外部との接触が禁じられて、一切の情報が閉ざされるということが、どんなに恐ろしいことか。かつて、ハンセン病療養施設で起きたことと同じ。中のことが外に漏れない。治外法となり、極悪非道な目に遭わされて死んだり、自殺に追い込まれたりしても、その中では病死とされる。

 

表現の自由ヘイトスピーチは、絶対に違う。また、クレームが針小棒大に扱われて、まるで判決のように扱われるのは、いかがなものか。世論は、サイレントマジョリティが、逆に声を上げないことで少数のラウドスピーカーによって作られる。

 

ここに、本作の刮目するべき文章を書き写す。

154頁2行目より

しかし、小説家のほとんどは、特権階級どころか人間失格者である。嘘話を想像して膨らませ、書き付けているうちに、実生活の方は疎かになる。そのうち実生活は虚構に吸い取られて、どんどん痩せて虚ろになるから、周囲の人間は呆れて離れていってしまう。孤独になった作家は、さらに虚構に逃げ込む。そして、完全にじぶんの作った虚構の中で生きるようになってしまえば、それはそれで幸せになるが、実生活では廃人同様だ。