ponsharaの読書日記

模倣犯』上・下 宮部みゆき著 小学館 2001年  ★★★★☆ ネタバレ注意!

週刊ポストに1995年~1999年まで連載されたものを

2年掛けて加筆改稿した。つまり、5年もの歳月をかけて書かれた大作である。

 

20年前に読んだものを、再読した。あまりにも長い物語だが、よく覚えている部分と全く忘れてしまった部分があった。しかし、涙する箇所は同じだ。

若い女性を誘拐して、しばらく弄んだ後に、絞殺。その後自宅の敷地に埋める。これを繰り返して喜んでいる犯人たち。なんという恐ろしい所業だろうか。一体犯人は、どういう人物か。どのような家庭環境なのか。どのような両親に育てられたのだろうか。宮部みゆきが、創造した殺人鬼の人物像は、一見優男でかっこいい二人組だった。

 

彼らに立ち向かうのが、おばさんルポライター、前畑滋子。孫を誘拐されてしまった、豆腐屋のおやじ有馬と自分の家族を強盗に全員惨殺されてしまった、真一少年。

 

ピースとヒロミは小中学校時代の同級生だが、自分たちは完全犯罪をしているのだから、絶対に捕まらないと考えている。しかし、ヒロミにいじめられ、お金をたかられている蕎麦屋長寿庵のカズは、ある日ヒロミが不審な電話をかけているところを目撃してしまう。そこで、カズを犯人に仕立てて自分たちの罪をなすりつけて自殺させようと、企むピース。

 

だが、こどもの頃成績不振で、ゆっくりとしか話せないために、皆からいじめられていたカズは、中学校で出会った教師に目の異常を指摘されて、この治療をすることで少しづつ自信を持ち、成績も上がっていった。自分をいじめて利用しようとするヒロミに対して、カズはいつも彼を許していた。そして、ヒロミが自分の死んだ姉の亡霊に追いかけられる夢を見て、恐怖していることを知っていた。ヒロミの力になりたいと、自首を勧めるシーン。やや冗長過ぎると思うが、愚かだとおもっていた者が、自分よりずっと大人で優しいと知るヒロミ。しかし、・・・。

 

驚くべき展開は、ピースとあだ名で呼ばれていた、犯人が、ヒロミとカズの死後にマスコミに登場するところだ。

「第3の犯人Xは生きている」と本を出してテレビに出てもてはやされるという展開に非常に驚かされた。善良で、「とろい」兄の無実を信じ続ける妹由美子。彼女をかばうという体で現れたのだが、彼は自己顕示欲の塊で、自分ほどの天才がミスをする訳がないと信じている。そして、人心掌握術に長けており、大抵の人は彼を信奉してしまう。

 

もう少し、早く滋子たちが、彼の化けの皮をひんむく時が来るのかと思っていたが、最後の最後にテレビの生中継で、その時が来るのだった。これは、本当に胸がすっとしたが・・・。

 

女の子をただの玩具としてしか見られないのは、犯人たちだけではない。行方不明者も警察に届けられていない分も合わせると、ものすごい数の人が現代の日本社会にはいるという。存命の人もいるだろうが、殺されたり、死んで土の中にいる人も少なくないことだろう。

素行不良の子だったとしても、親に反抗して家でした娘だったとしても、もっときちんと行方不明者を捜索してほしい。そして、誘拐殺人だとしたら、もっと本腰を入れて初動段階から犯人逮捕を目指すべきだ。次の犠牲者を出す前に。

 

滋子が夫より学歴があり、仕事を優先しようとして家を空けているからと、離婚を言い渡される場面など、もあり、今日的な問題が既に25年以上前からあったことがわかる。

 

もう少し、コンパクトにできる、登場人物を詳細に描き過ぎている。故にマイナス1★

後編で、少しづつ網川浩一を犯人とする物証が出てくるが、その伏線が回収されていないところが、気になった。これは、読者が想像してほしいということか。

 

有馬豆腐店の豆腐はうまそうだった。もう、この店は閉店してしまった。残念だ。

 

紙の上に文字だけで描かれた物語、その人物たちが20年経っても生きていて、わたくしとの再会を待っていた。これは嬉しいことだが、悲しくて切ない場面も変わっていなかった。

 

カズと妹の由美子は、殺さなくて良かった。カズの障害を見抜いてくれた、柿崎先生はよろよろとする病気の体で、カズとヒロミが死の直前立ち寄った店にやって来て、ウエイトレスから、彼らの様子を聞こうとする場面。

カズくんは、いい子だった。先生はそう言って涙ぐむのだった。

ponsyharaも、大粒の涙を落とした。